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<能楽>万作、16年ぶり『釣狐』 袴狂言で前シテのみ再演

 

 


2009年9月26日

 野村万作(人間国宝)が十六年ぶりに、狂言の最高秘曲「釣狐(つりぎつね)」を異例の袴(はかま)狂言で前シテのみ再演する。過去二十数回演じ続 けて、一九九三年を最後に封印していた。時がたち「素の形で、より深めた狐を見てもらいたい」との思いが強まったという。 (藤英樹)

 再演は「万作を観(み)る会」が東京・国立能楽堂で開く。十月十四日午後七時からと、十八日午後二時からの二回。

 曲は、猟師に一族の狐を釣られ続けた狐が、猟師の伯父の僧(白蔵主)に化けて、釣りをやめさせようという話。前シテの台詞(せりふ)や、罠(わ な)の油揚げに引き寄せられる後シテの四つんばいになった動きなど、高度な技術が求められる。狂言師は「猿に始まり狐に終わる」と言われるほど。

 万作は七七年十一月の公演で、初めて父・六世万蔵を相手役の猟師に、狐を演じた。「それまで父から習ってきたもの以外の自分なりの工夫を盛り込ん だ。申し合わせで父に殴られるかと怖かったが、父は何も言わなかった。後に父は『倅(せがれ)がライバルになった』と言った」。万作はこの演技で四十代で 芸術祭大賞を受賞。父はその翌年五月に亡くなった。

 狐にこだわり続けた万作だが、九三年の最終公演の後は、「体力が続かない」と再演の勧めを断ってきた。

 ところが、自宅で飼っている猫の動きを見ていると狐の動きが思い出され、昨年には弟子の狐を指導する中で「十六年前より、もう少し深めた狐を見てほしいとの思いが強くなった」と語る。

 面や装束を着けない袴狂言とすることには「舞踊の素踊りを見ていると、体の線がよく分かり、芸の本質が伝わる気がする。狐も人間に化けているのだから半分は万作の顔でよいはず。私の顔が面と同じ白蔵主に見えてくるのではないか」と自信をのぞかせる。

 ただ、再演は前シテのみ。「四つんばいの狐を演じる後シテは、表現が芸術的でなくなる。袴ではうまくない」というのが理由。

 動きの少ない前シテのみだけに、ファンにはやや不満だが、万作は「たくさん動くのではなく、たくさんの動きを感じている狐を見てほしい。鑑賞に堪え得るものにしたい」と執念をみせる。

 七十八歳の老狐の相手役・猟師を勤める息子の野村萬斎は「十六年間、父の中に寝かせていたものが発酵しているはず。素で演じることで役者の世界観がにじみ出る。究極の狐が表れるのではないか。私たち弟子も楽しみ」と話している。

 演目はほかに狂言「止動方角」、素囃子「安宅 滝流」、連吟「鳴子」。1万~4千円。(電)03・3997・8778。

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